心臓は全身から戻ってきた血液を肺に送り、肺で酸素化された血液を全身に送り出すポンプの働きをしています。心臓がポンプの役割を果たさなくなると、全身に血液が送られなくなり、最悪の場合、突然死することもあります。また、心臓病は一見元気そうでも身体検査で異常が発覚し重大な病気が見つかることがあり、症状がある場合はすでに病気が進行している可能性もあります。
現在では、予防医療の発達や、ペットフードの改善など多くの要因が重なり寿命が大幅に伸びています。また日本のペット人口における割合として小型犬が増えると共に、心臓病に罹患する率が年々増えてきている傾向にあります。
心臓病は検査を定期的に行い、早期発見、早期治療につなげる事が大切です。
こんな症状ありませんか?
- 咳をする
- 呼吸が荒い
- 痩せてきた
- お腹がはっている
- 苦しそうにしている
- 疲れやすい
- ふらつく
循環器に関する病気の好発犬種
- 小型犬
特にマルチーズ、シーズー、チワワ、ポメラニアンなど
- 中型犬
柴犬、キャバリア・キングチャールズ・スパニエル
主な検査方法
問診や身体検査を元に検査を実施し、主な検査は、超音波検査、レントゲン検査、心電図検査、血圧検査、血液検査があります。
身体検査では、呼吸様式の観察、可視粘膜の色調の観察、脈圧の触知、心音や肺音の聴診などを行い、動物の状態を大まかに把握します。
超音波検査
超音波検査の最大の特徴は、他の画像検査と異なり、リアルタイムで断層画像を見ることが出来ることです。また、無麻酔下で行えることから動物への負担も少ないことも特徴です。
超音波検査では、各臓器の形態、内部構造や腫瘍、異物、結石、腹水、炎症の存在を知ることが出来ます。また、心臓の形態学的評価と血流の評価により、心疾患の診断、病態の評価を行うことが出来ます。
レントゲン検査
肺の状態(肺水腫や肺炎を起こしていないかどうか)の確認や胸水貯留の有無、腫瘍性病変の有無などを確認します。
心電図検査
心電図検査は、記録された心電図をもとに間接的に心拍数、心房と心室の協調性、心房と心室の拡大、不整脈などを評価します。
症例
- 概 要
- 心臓には4つの部屋があり、各部屋は弁で仕切られています。
このうち、左心房と左心室の間にある弁が僧帽弁です。
この弁がしっかり閉まらなくなり血液が逆流してしまうのが僧帽弁閉鎖不全症です。
特に小型犬では高齢になると僧帽弁が変性を起こす(粘液腫様変性)ことがあり、このため血液の逆流が起こります。
- 症 状
- 僧帽弁閉鎖不全症は初期のころは無症状であることが多いです。
進行すると逆流した血液のために心臓が大きくなり(心拡大)、様々な症状を示すようになります。
- 咳
拡大した左心房が気管を挙上させたり、気管支を圧迫するようになると咳が出るようになります。
- 運動不耐
運動すると呼吸が苦しくなり、動きたがらないことがあります。
- 呼吸促拍
呼吸の回数を増やすことで酸素を取り込もうとするため呼吸数が増えます。
- 肺水腫
さらに進行して肺胞に水が溜まった状態を肺水腫といい、呼吸が苦しく生命を脅かす状態となります。
- 診 断
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- 聴診
左側の心臓から血液が逆流する時のザーザーという音が聞こえて発見されることが多いです。
猫ちゃんの場合は、心臓が悪くても心音は正常なこともあるので注意が必要です。
- X線検査
心臓の大きさ、肺の状態とともに気管、気管支の状態も確認できます。
- 心臓エコー検査
心雑音の原因部位がどこにあるかを調べ、血流の測定などにより心臓への負荷がどのくらいあるかを評価します。
- 血液検査
心臓バイオマーカー(NT-proBNP、ANPなど)は心臓に負担があると上昇します。治療中の効果判定に利用することもあります。
- 治 療
- 僧帽弁閉鎖不全症は徐々に進行していく疾患であるため症状は軽症から重症まで様々です。検査や症状によって重症度や病気の段階を判定し、それに沿って治療方針が決まります。
- 内科療法
血圧を下げる薬、心臓の収縮を助ける薬、心臓を保護する薬、利尿剤などが状態によって処方されます。
- 食餌療法
心筋の繊維化を防ぐ抗酸化成分が含まれたものや塩分の少ない処方食があります。
- 外科療法
手術ができる動物病院は今のところ限られていますが、手術が適応となる場合もあります。
特に高齢になったら無症状でも心雑音がないか定期的な健診をお勧めします。
診察時の身体検査で心雑音が認められたら、心臓の検査を受けて早期発見、早期治療をしていきましょう。
- 概 要
- 心臓は心膜という膜に包まれており、心臓とその膜の間の液体を心膜液といいます。正常な場合でも心膜液は少量存在し、潤滑液としての働きをしています。
心膜液が何らかの原因で過剰に貯留してしまうと、心臓のポンプ機能が正常に働かなくなります。この状態を心タンポナーゼいいます。
- 原 因
- 血管肉腫、心基底部腫瘍、リンパ腫、中皮腫などの腫瘍からの出血、外傷、僧帽弁閉鎖不全症に続発する心房破裂、原因不明の特発性などが挙げられます。
また、心膜炎、うっ血性心不全、低アルブミン血症などが原因となることもあります。
- 症 状
- 心臓が正常に血液を循環させることができなくなることで様々な症状を示します。
失神、虚脱(ぐったりする)、呼吸困難、頻呼吸(呼吸が速い)などから、嘔吐や食欲不振など消化器症状を示すこともあります。
- 診 断
- 身体検査では、心音が小さくしか聞こえない、低血圧のため脈圧が弱くなる、頚静脈が怒張している(張っている)、歯茎など粘膜の色が白っぽい、などが認められることがあります。
X線検査では、拡大した心臓が見られます。心臓が円形に見える場合もあります。
心臓が大きく見える場合、うっ血性心不全などで心臓自体が大きくなっているのか、心膜液の貯留なのかを見極めるために超音波検査を行います。
- 治 療
- 心タンポナーデは救急疾患であるため、危険な状態を回避するため速やかに心膜穿刺をして心膜液を抜去する必要があります。
心膜穿刺とは、皮膚から心臓の膜の中に針を刺して液を抜く危険を伴う処置なので、エコーを見ながら慎重に行います。
また、動物が暴れてしまうと心臓に針が当たって不整脈を引き起こすこともあり、鎮静が必要な場合もあります。
穿刺して得られた心膜液を検査することで原因を調べることができます。
心臓病であればその治療を行います。
腫瘍が原因の場合は一般に悪性のことが多いです。
心膜穿刺後は、液が再度貯留しないか経過を見て、貯留が認められれば再度抜去します。
繰り返す場合は心膜腔に液が溜まらないように心膜を切除する手術をすることもあります。
心タンポナーゼは非常に危険な状態です。急に元気がなくなった、舌が白い、手足など体の先端が冷たい、咳、呼吸が速いなどの症状が見られたら、すぐ動物病院を受診するようにしましょう。